M-1グランプリ2019 ②勝手な感想

 ★ニューヨーク  往年の名脇役田中春男さんを思わせる風貌のボケ嶋佐の曲者感が気になるコンビ。ツッコミの屋敷共々、豹変的不良性も匂う。芸風にどう反映させていくか。今回は所謂歌ネタで、入りが間延びしたが、とぼけたナンセンスの持ち味は出て、トップバッターとしては奏功した面もあった。ただインパクトの面では薄味だったし、やはり歌ネタの限界もあった。今田や松本のイジリが結構強かったのは先輩なりのフォローだったかもしれない。

 ★すゑひろがりず  やや老けて見える昭和的オッサンが袴を着け鼓を携えた能楽姿と台詞回しを借り、昨今の社会風俗を取り上げてアナクロ的なギャップに笑いを生み出す。古の三河萬歳や俄のような古風なやり取りははんなりと板についていて、見る側を構えさせるところがない。あとは取り上げるボケネタということになるが、ここはとりあえず及第プラスといったところ。応用やイメージ打破の難しさは付きまとうが、当面はこの定型の強みを生かして地歩を固めるべきだろう。

 ★からし蓮根  ぬぅーっとでかいボケと、色白小顔で少々煩いがいきむ姿が子供っぽく可愛いツッコミ。柄とコンビネーションが良く、熊本訛りの効果か見る側をリラックスさせるところのある筋のいいコンビ。今回の教習所の教官と生徒のネタはボケネタがやや弱く、全体としていまひとつだった印象だが、最後、罵詈雑言を浴びた生徒が教官を後ろから撥ねたシーンが嫌な感じにならず大きく受けたところは彼らの持ち味。おそらくコントも得意なのだと思う。出場者全体にステージ上での動きが大きくなる傾向があるが、必ずしもしゃべくりではなくともコントに寄り過ぎることのないよう勝手に望みたい。
 「ツッコミは怖くないと」と言っていたはずの松本に「ツッコミが怖すぎた」といじられた時の杉本のリアクションは好感度を上げたのでは。

 ★見取り図  結成13年年目とはいえ発展途上だろうし、安定感を増したことは見て取れたが、期待していたほどではなかった。本寸法のしゃべくりとなるとネタ探しはそう楽ではないから、言葉遊びや比喩・例えなどは付き物になるし、今回のような互いの容姿を揶揄するようなネタもレパートリーに入ってくるだろう。そこはセンスを問われることになる訳だが、悪くはなかった。個人的には賛否あろうが「すっぴんの女のような」に受けた。
 只、羅列だけでは「それで」となる。もうひと捻りの厚みも欲しいし、「これで仲良くなれたな」というオチに相応の構成力も求めたい。リリーが盛山にやったグリグリ―トータルテンボスの足打ちのよう―がアクセントでは困る。

 ★オズワルド  ファイナル進出組と和牛を除いて最も印象に残ったコンビ。おぎやはぎとの相似を言う向きもあり、滑り出しそんな見る側に負担を少し強いるような硬い雰囲気もあったが、キャリア5年といいながら滑舌も畳み掛ける技術も本家を凌ぐ。尻上がりに間合いが加速し、話を聞かないマイペースのボケと間髪入れぬクールで理詰めのツッコミとの対比が際立った。ツッコミ伊藤が偶に見せるイキったりの破調が幅の広さにつながっていくか。受けなかった"細稲垣"は、いい線いっていると思うが。

 ★インディアンス  言ってしまえば憑依芸。暑苦しい顔と体形で高い掠れ声のおっさんがおやじギャグをかまし、うざったい講釈を垂れ、厚かましいノリを押し付ければそのまま生態風刺のネタにもなるが、もうひと捻りし、"おっさんのベビーや女子”になり切ることで、おっさんの可笑しさを増幅させるとともに、赤ちゃんや女性というものに対する固定観念をも揺さぶる―といった理屈を吹き飛ばす勢いで制御不能気味のハイテンションボケが炸裂する。3位にあった和牛は会場を巻き込む彼らの大爆発の可能性を意識していたそうである。
 しかし、会場の盛り上がりに比べ審査員の評価が伸びなかったのは何故か?「作り込んであるが、素の部分の面白さや人間味が欲しい」という中川家礼二の評が的確な気がする。お笑いロボットのおっさんに情味と陰影が出ればもっと…ということなのだろう。要求は高い。

 ★和牛  「横柄だ、緊張感がない、ぞんざい」という上沼さんの唐突な罵倒は準決勝でグズグズした彼らへの叱咤だそうで、彼らの(色々な番組に)出過ぎ、(色々な漫才の試みを)やり過ぎから来た印象であるならば一理あるかと思わないでもないが、彼らが徐々に醸し始めたどこか超然としたクールな雰囲気に対する底意もなんとなくあるような気がする。完全な私見だが、彼らは吉本の枠やお笑いのムラ社会に収まりきれないのではないか。ロケや料理番組、バラエティー番組を冷静にこなしながら、何を為すべきか、如何にあるべきかストイックに考えているのではないだろうか。
 今年の決勝にかけた不動産屋ネタは敗者復活戦と同じだったが、順番が来てから発表するという番組構成上の制約でネタ合わせの時間もなかったのだろう。それでいて、屋外で声も振りも少し大きくせざるを得ない敗者復活戦時とは細かいところで加減と改良が加えられていて、ぞんざいではなかった。全体的には作り物感を薄め、力みも抑えた印象。元来のテンポの良さと川西の滑舌のキレが際立った。川西のボケ寄りのツッコミについて意見があるようだが、私は彼らが敢えてオール阪神・巨人ばりの自然なダブルボケをここでのミッションの一つにしたものと思っていた。上沼さんの「大御所のように」という批判は、まさかこの点を論ったものではないと思うが。
 それにしても、幅の広さに高い点をつけた外部のナイツ塙に比べ、褒めた割に松本の採点は渋かった。準備していたというセカンドステージ用のネタはどんなものだったろうか。

 ★ぺこぱ  誰もが思うように、一方が化粧して出てきて上体とぼさぼさ髪を振り回しながら自己紹介を始めた時、「何だ、色物枠があったのか」と引いた。そのままキザで大仰なツッコミを展開すれば、予定調和的に「何で決勝に残れたの」ということになったろう。ところが正体不明・挙動不審のこの男、ノッてツッコむと見せてサッと踵を返す。ボケを腐さず、落さず、理解を示すばかりか、己を内省し人と世の条理不条理まで踏み込む。ツッコまないツッコミ形式の誕生である。気の利いた視点やフレーズ、レトリックが新形式を支える。
 才走っても、二枚目でも、単なるよごれでもこの役には足りなかったろう。大衆演劇風もしくは齢のいったホスト風のこの男、理知的ではないが軽薄でもなく、男前ではないがどこか愛嬌がある。よごれではないが泥水の味は知っていそうで、そこはかとない哀愁が漂う。客席を指さし流し目を送るのに衒いは見られないが、素のシャイネスと優しさが時折透けて見え、共感を引き寄せる。新形式に相応しいややこしいキャラクターなのである。
 一方、ボケ役の天然系の茫洋感と頼りなさが、ツッコミの独り相撲感を浮き立たせ笑いに作用している。審査員も指摘するようにキャラクター未確立で素人っぽくすらあるこのボケ役。達者になり過ぎても功罪伴いそうだが、その成長変貌ぶりが、マンネリ化打破やら安定感の増大やらコンビとしての将来を左右するかもしれない。

 ★ミルクボーイ  掛け値なしの初見。塙の言葉のように「誰がやっても面白いネタ」の存在がまずある。「○○やろ」「じゃあ違うやろ」これ応酬ではなく同じツッコミ役の言葉である。問答型のそんな行きつ戻りつネタは従来からあると思うが、○○=コーンフレークが何と言っても絶妙だった。一方塙は、自分たちも同じようなことをやろうとしたがなかなか上手くいかないとも言った。当たり前だが、誰がやっても面白いネタが誰がやっても爆笑を取れる訳ではないのである。
 そういう意味で、これは彼らのためのネタだった。正直、笑いを呼んだ「煩悩のかたまり」とか「生産者の顔が見えない」といったコーンフレーク映えする幾つものボケそれ自体は、秀逸だがかつてない画期的なものかというとそうは思えないし、上沼さんが言うほどセンスの違いが際立つとも思わなかった。どちらかというとオールドファッションでもある。
 笑いが増幅したのは、34歳には見えない角刈り小太りのおじさんが真面目な顔でコーンフレークに拘るところが何とも言えず可笑しかったからであり、同じ学年には見えないガタイは立派な青年の捉えどころのない問いかけ(ボケ)に声を大にして懸命に教えようとする姿に巻き込まれたからだと思う。つまり、キャラクターがピタリとネタにはまって突入した確変だったのである。
 これも正直言うと、二本目の最中ネタではインパクトは少しく薄らいだ。しかし、好感されそうなキャラクターと安定した技術の下で今後、食品以外のものにもバリエーションを広げていけるのではないだろうか。

 ★かまいたち  一本目。利己的で非常識な粘着気質にイラつかされ振り回される自分たちのフィールドだが、言い間違いを強引強情に転嫁しようとする、それだけのネタで4分をむしろ短く感じさせた。
 強弁、すっとぼけ、搦め手、ごまかし、開き直り―頑強な変人っぷりを一本調子にしない構成力、そして「どう乗り切る気」「お前が損するから、これ以上は」「小さい男思われるって、な」―呆れた笑いを引き起こす言葉のチョイスが作り込みの確かさを物語るが、積み重ねたキャリアで身に付けた自然な間合いが作り物感を忘れさせる。相手無視の一人しゃべりや、「もし俺が謝ってこられてきてたとしたら、絶対に認められてたと思うか」と誰もが聞き返さずにはいられない妄言に逃げ込んだ挙句、最後にまた言い間違えて「言うとるやないか」と頭をはたかれるオチも、よく出来ていた。
 途中、困惑した濱家が上手・下手と歩いて客席にアピールする場面はコント的だが、この場をこの15年の集大成の場としようという彼らの意欲がそこに感じられた。
 二本目の「となりのトトロ観たことない自慢」は、少しくだけた感じで彼らの持ち味としゃべくりの腕をストレートにさらしてきた。言い募る屁理屈そのものも可笑しければ、その破綻も笑える。「選ぶ権利は私にあるということは、ジャンケンで二度出せるということ」と言いながら二度目でも「負けとるやないか」となるところなど小ボケも随所に盛り込まれ、スピーディーなやり取りに引き込まれた。
 冒頭記したように私は、1本目でも2本総合でもかまいたちだと思ったが、分かりやすさと勢いでミルクボーイが勝ったということなのだろう。
 松本だけがかまいたちに投票したが、これは忖度にせよ、気配りにせよ、アリバイ作りにせよ、ミルクボーイが勝つことを見越した上での行動と私は思っている。


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